百日咳ワクチン
以下は、私の考える百日咳の対策です。
現行の百日咳ワクチンの免疫持続時間は確かに短縮している可能性が高いものの、少なくとも生後2か月から1歳までの感染予防は出来ているので、ワクチンスケジュールの変更は必要ないと感じています。
無防備な生後2か月以内の赤ちゃんを守るためには、コクーン・ストラテジーは重要で、かつ効果的な施策と考えられることから、妊婦やその家族へのワクチン推奨はすべきと考えます。
海外事例から集団での感染予防には限界があることが判明しており、百日咳菌のワクチン回避、免疫回避を誘発する可能性のある「やみくもな」接種回数増加に対しては懐疑的な印象をもっています。それよりも、コモンディジーズである百日咳の早期診断・早期治療の確立が急務と考えており、それが、このサイトを立ち上げた理由でもあります。
現行の百日咳ワクチンの免疫持続時間は確かに短縮している可能性が高いものの、少なくとも生後2か月から1歳までの感染予防は出来ているので、ワクチンスケジュールの変更は必要ないと感じています。
百日咳ワクチンの歴史:全菌体ワクチン
1960年代以降1981年まで使用されていた百日咳ワクチンは、「全菌体ワクチン」で百日咳菌の菌体成分が入っていることで効果は高いものの、接種後の副反応が強く、けいれんや脳炎で亡くなった症例が続いたことで接種が1981年に中止となった経緯があります。
しかしながら、百日咳ワクチン接種が始まる以前の1950年代には日本国内で百日咳によって年間約1000人の死亡数が、1960年は約100人、1965年年65人、1970年35人、1980年1人まで減少したことはワクチンの大功績と言えますし、百日咳がVPD(Vaccine Preventive Disease;ワクチンで予防可能な疾患)の筆頭と言われるゆえんです。それにしても、以前は、百日咳で年間に1000人もの命が奪われていた事実に驚きを禁じえません。本当に怖い病気だと再認識できます。
百日咳ワクチンの歴史:無菌体ワクチン
現在世界中で使用されている百日咳ワクチンは「無菌体ワクチン」で、百日咳菌の菌体成分が入っていない、菌の一部の物質のみを抗原としたワクチンで、日本の研究者ご夫妻が開発しました。接種後の発熱や接種部位の腫れなどの副作用が少なく安全性が高いと言うことで、1982年からずっと使用され続けています。
ただ、欠点として感染予防効果の期間(免疫持続期間)が短いことが知られていて、以前は15年間、その後4年から10年間程度と言われていましたが、最近になって2歳や3歳児も百日咳に罹患するのを見かけるようになっているので、4年は持たない印象です。ただし、2歳以上で罹患したとしても重症化は防げていることと、一番守らなければならない重症化しやすい0歳から1歳に対する免疫持続期間は現状きちんと担保されていると思われます。
百日咳ワクチン中止の影響:
「全菌体ワクチン」接種が中止となった1981年の百日咳の罹患者数は年間約1,000人程度でしたが、「無菌体ワクチン」の再開が始まった1982年には約13,000人に急増し、3人の死亡例も報告されています。その後の罹患者数の推移は1983年・約11,100人、1984年・約8,000人、1985年・約5,000人、1986年・約3,000人と徐々に低下してゆきました。
百日咳ワクチンをたった1年間中止しただけでも爆発的に流行し、その後ワクチンを直ぐに再開しても急激な減少にはつながらないと言う百日咳は、侮れない怖い感染症だと再認識できます。
百日咳ワクチンの回数を増やせば感染が防げるのか? ワクチン回避(免疫逃避)とは?:
百日咳ワクチンは、アメリカにおいては、小児期に6回接種しています。日本では4回接種しかしていないので、アメリカと同様に6回接種をすべき、と言う考え方があります。実際、日本小児科学会では、5回目のワクチンを年長児(5歳頃)、6回目のワクチンを11-12歳頃に接種することを推奨しています。
しかしながら、百日咳菌はとてもしたたかで、ワクチンの効果を回避するため、ワクチンに含まれる抗原(成分)をわざと失うことで生き延びようとする変異株が増えています。これをワクチン回避、免疫逃避と呼びます。以前使用されていた「全菌体ワクチン」は百日咳菌自体を用いたワクチンの為、百日咳菌に含まれる多数の構造物・成分にまんべんなく免疫を作ることが可能でした。
しかしながら、副作用の少ない「無菌体ワクチン」は、菌の構造物の一部(数種類)だけを用いるため、百日咳菌からその構造物が無くなってしまうとワクチンは全く効果が無くなってしまいます。これは「免疫選択圧」と呼ばれる進化の一種です。
アメリカでは、百日咳撲滅を目指して、百日咳ワクチン接種を増やす政策を採った時期がありました。しかしながら、ワクチン接種の最初の2年間は発症が減るものの、3年目に却って百日咳が爆発的に増加しその政策は断念されました。これもワクチン回避、免疫逃避によるものと後に判明しています。
イギリスでは、集団での予防ではなく、重症化リスクの高い0歳児の命を守るために、妊婦さんとその周囲の両親や祖父母、同胞や医療・福祉従事者に対してワクチン接種を推奨しています。赤ちゃんを「繭(コクーン)」のようにワクチンで守られた大人たちで囲むことで、生直後の赤ちゃんの命を守る方法で、「Cocoon strategy:コクーン・ストラテジー」と呼ばれています。