診断について
- 百日咳抗体IgM、百日抗体IgA、そして百日咳抗体IgGの3抗体同時測定が確実で一番有用性の高い検査方法である。結果判明が3日から1週間かかることが呼吸器パネル検査と比較すると弱い部分である。加えて、3抗体同時測定の保険適応がなく1つの抗体のみの保険適応のため、医療機関が抗体検査代金を負担しなくてはならないことが大きな問題点である。
- 同時多項目PCR検査(呼吸器パネル検査)は有用性が高く、陽性が確認されれば20分以内に確定診断を得ることができるのが最大のメリットである。ただし、ワクチンによる修飾を受けるために、年齢層によって陽性率がかなり変化するため、偽陰性の可能性は常に残る欠点がある。
百日咳抗体IgM(M抗体)、
百日咳抗体IgA(A抗体)
当院での研究では、血液検査によるM抗体とA抗体が百日咳の早期診断に一番有用性の高い検査であると結論づけている。
発症後数日でも抗体価が上昇している症例も多く、M抗体とA抗体、後に出てくる百日咳抗体IgG(G抗体)との組み合わせを用いて、百日咳菌とパラ百日咳菌の鑑別も可能である。発症早期の場合、IgM/IgA比(M/A比)が2.0以上で百日咳の可能性が高い(感度70%、特異度80%)と類推できるメリットもある。
百日咳菌による百日咳の場合、最初に上昇するのはM抗体である。M抗体は発症後2-3日から1週間程度で8.5NTUを超える。次に上昇するのがA抗体で、発症後2週間程度で8.5NTUを超えるので、発症時期の推定にも役立つ。
パラ百日咳菌による百日咳の場合には、M抗体は正常範囲内にとどまり、A抗体のみが上昇するのが特徴で、G抗体との組み合わせで発症時期の推定も可能である。
M抗体やA抗体の上昇は成書には発症後2週間以降との記載があるが、殆どの場合1週間以内に上昇を認める。この原因もワクチンによる修飾と推量していて、百日咳感染自体は症状が出るよりも前に起きていて、それが早期のM抗体上昇の原因と考えている。
ただし大きな問題点として、これらの3抗体はそれぞれに保険適応はあるのだが、2つ以上の抗体検査の同時測定は認められておらず、当院では持ち出しでM抗体、A抗体、G抗体の3抗体同時測定を実施している。
一刻も早い保険適応を望むばかりである(日本呼吸器学会からも要望書を提出しているがいまだに承認されない)。
同時多項目PCR検査
(呼吸器パネル検査)
13種類の病原体を20分足らずで同時にPCR検査が出来る器械が数年前から上梓されている。
百日咳には百日咳菌とパラ百日咳菌の2種類の菌が存在するが、この器械によって2つの菌を同時に鑑別することが可能である。
ただし、当院での18か月間のデータ(未発表:来年4月の各種学会で発表予定)では、8歳から18歳までの百日咳菌の検出率は他の年齢層よりは高いものの、それでも陽性率は30-40%程度に留まっている。ワクチン接種直後の5歳以下の小児、或いは成人での検出率は非常に低い印象を持っている。陽性が出れば確定診断を得られるが、陰性であっても百日咳を否定する根拠にはならない。PCR検査ゆえにLAMP法や抗原法に比較すれば有用性は非常に高い器械である。
私見ではあるが、マイコプラズマ肺炎、ヒトメタニューモウィルス(hMPV)、RSウィルス、アデノウィルスなどの診断には実力を発揮し、実地医家にはなくてはならない器械と考えている。保険適応はあるが、コストが高いのが欠点ではある。
百日咳抗体IgG(G抗体:PT-IgG、FHA-IgG)
古典的な百日咳抗体検査である。PT-IgG≧100で百日咳と確定できるが、発症1か月後にやっと上昇するために早期診断には適さない。ただし、3抗体同時測定によって、発症時期の推定や起因菌の類推に用いることが出来るため、いまだに有用性は残っている。
その他
他にも色々な検査法が教科書的には存在するが、現在すぐに役に立つのは、百日咳抗体の3種類同時測定法、或いは呼吸器パネル検査だけで十分と考えている。