百日咳専門サイト

百日咳と気管支喘息との関連性と相違点
  1. 「病気は一つとは限らない」は留意すべき視点である。百日咳患者さんのうち百日咳だけに罹患しているのは全体の40%のみで、百日咳と気管支喘息を併発している患者さんは60%にものぼる。
  2. 百日咳の咳は乾いた咳だけとは限らない。気管支喘息の合併があると、湿った、痰の絡んだ咳を呈する場合も多い。
  3. 気管支喘息の診断は聴診だけではなく、モストグラフによる呼吸抵抗値の測定や、呼気一酸化窒素濃度測定も有用な診断法である。

まずは、気管支喘息について

百日咳と気管支喘息は関連性があるものの、全く異なる疾患です。
気管支喘息は、ひどい発作になると「ゼーゼー」と音(喘鳴:ぜんめい)が聞こえて、特に夜間・早朝に息苦しくて横たわって寝ていられなくなり、座って呼吸をする状態(起坐呼吸)に陥ります。ここまでひどい発作ではなくても、せき、痰が多い、声がかすれる、笑うとせき込む、運動後(特に走った後)のせき込みも気管支喘息の特徴的な症状です。治療は吸入ステロイド薬とロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)内服が基本治療で、治療開始から3日から1週間以内に咳を止めることが可能です。

気管支喘息は聴診器を当てれば簡単に診断がつくと思っている方が大多数かもしれません。この考え方は医療従事者でも意外に多い様な気がします。日中の診察時間内に、聴診器を当てて喘鳴が聞こえる喘息患者さんは10%未満です。なぜなら、気管支喘息は日中には喘鳴がなく比較的楽に過ごせる方が多く、夜間・早朝に喘鳴が悪化し呼吸困難となるためです。そのため、日中に喘鳴が聴取できた場合にはかなり重症ということになり、迅速な治療が必要となります。

「聴診で喘鳴が聴取されないので喘息ではなくカゼです」と言われて続けて当院を訪れる患者さんも多いのですが、これだと90%の喘息患者さんを見逃すことになります。この事象は百日咳の場合も頻回に遭遇し、咳がひどくても「聴診上、喘鳴が聞こえないのでカゼです」と言われてしまう構図にとても良く似ています。聴診は現代においてもとても大事な診察手技ですが、それだけに頼ると間違うこともあると言うことです。

気管支喘息の診断にはとても頼りになる検査法が2つあります。一つ目は「モストグラフ」です。東北大学教授の黒沢一先生が開発された呼吸抵抗値(Rrs)を測定する器械で、5歳程度のお子さんでも簡単に実施できる優れものです。もう一つは、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)測定法で、喘息診断に世界中で使用されている有名な器械です。聴診器で喘鳴が聞こえなくても、この二つの器械を使うことで、気管支喘息の有無を確認することができます。

この二つの検査、モストグラフと呼気一酸化窒素濃度測定器で気管支喘息が否定され(場合によっては胸部レントゲン検査や胸部CT検査が必要な時もあります)、「スタッカート咳嗽」と「せき嘔吐」があれば、かなりの高い確率で百日咳と診断できるため、とても有効な検査方法と考えています。

百日咳と気管支喘息の関連性について

「病気は一つとは限らない」と言う名言があります。百日咳も単独で存在するとは限りません。実は、百日咳の患者さんの60%は気管支喘息との合併があることが当院のデータで判明しています。その60%の内訳は、20%が喘息治療中の患者さん、10%はかつて喘息で治療を受けていたが咳が消失したため自己中断していた患者さん(このグループの患者さんの多くは喘息発作の再発と思って来院します)、残りの30%は百日咳感染をきっかけに初めて気管支喘息を発症してしまった患者さんです。

そのため、百日咳は「乾いた咳:乾性咳嗽」と成書に記載がありますが、喘息を併発している症例では、痰の絡んだ湿った咳(湿性咳嗽)や、聴診で喘鳴が聴取できることもあります。痰が絡む咳だから、或いは喘息の様な喘鳴が聴診できるから「百日咳ではない」と断定するのは早計です。逆に言うと、気管支喘息を伴わない百日咳は40%しかいない、と言うことになります。喘息併発の有無をきちんと判断して、気管支喘息と診断されても喘息の治療に反応しない場合には百日咳の関与を確認すべきと考えています。